鶴見大学歯学部口腔細菌学教授 前田 伸子 さん 
をお招きしての第1回後編です



ロズリン: さて3月7日にアップした前田先生のインタビュー、今回が後編です。 

前田 若い時はいわゆる基礎研究より臨床の人たち
の役に立つ、実践的
な細菌学を究めたい、と思ってい
たのです。でも、大学院に入ったとき、
そう言う私に
「そんな狭いことを言っちゃ一人前の学者にはなれな
いよ」
と、今は亡き恩師の一人に言われたのです。

 


大学院を修了してすぐ、今の鶴見大学で講師のポスト
があって、キャ
リアの上では恵まれていたわけですが、
その頃、ただひたすら大学院の
研究の指導しかできない

自分に気づき、これじゃいけないと思いました。

その後、アメリカ留学のチャンスを得て、フロリダ大学で今まで行なった
ことのない細菌学以外の唾液研究のテーマが与えられ、その仕事をしなが
ら、やはり細菌学はそのまま臨床に役立つものであるべきと痛感しました。

 

当事の日本にはそうした橋渡しをする人がほとんどいなくて、日本に帰っ

たら自分がやってみようと決意しました

 

ロズリン: 留学の大きな成果と言えますね

 

前田: 今も、いわゆる基礎の王道は行っていないな、とは思いますが。

でも、試験管の中のことというよりは、今の社会で実際に起こっている

ことの“本当のところ”を、できるかぎり見つけていく仕事をしていき

たい、と考えています

 

ロズリン: 今後の細菌学の主なテーマは

 

前田: 多くの“培養できない菌”についてどうするのか、ということで

しょう。

これまで見てきたのは捉えやすい菌ばかりで、全体のごく一部に過ぎない

と思われて。それらにどうアプローチするのか、実は細菌学自体が岐路に

立っていると思います

 

ロズリン: 研究の現場で、大切なこととは何ですか

 

前田: 現状としては、どんなに優秀な人でも歯学部の教育のなかで
研究に関する
ABCを学びません。歯学部や医学部は、臨床教育が中心に
なり
ますし、そのためには国家試験の突破が不可欠ですから。

いきおい、基礎
研究は二の次みたいなところがあります。たとえ、首席
で卒業したような
人でも、研究者としては全くの素人ですから、そこで
自分からテーマを見
つけていく人を育てるところが、大学や大学院です。
といって、大学人と
して自分で研究することと教えることの両方に軸足を
とるのは、とくにた
くさんの学生さんがいる、私立の歯学部/医学部では
非常に難しいんです
けれどね

 

ロズリン: 今日は、前田先生のご友人の、カレン・マイヤさんもご一緒

です。 マイヤさんは長年に渡ってドイツと日本の橋渡し役をしながら、

仕事や勉強を続けて来られました。現在は、横浜市立大学の国際総合科学

部の学生でいらっしゃるとか

 

マイヤ: 以前の仕事で関わった、歯科材料学を
り本格的に学びたかったからです。
前田先生とは
6年ほど前、歯科材料の営業の仕事を
通じて以来のお付き合いです

 

ロズリン: 歯科材料に関しては、ご興味がおあ
りでしたか

 

マイヤ: ドイツの企業の日本法人に15年間務めて
いましたが、入社の
動機は勤務条件が良かったから
です。
が、しばらくしてプロダクトマネジ
メントなどの重要な仕事を任されるよう
になると、専門知識の足りなさを
痛感することが多くなって、それできちん
と勉強し直そうと思いました

 

ロズリン: 日本の大学で、日本語で勉強するのは大変なのでは

 

マイヤ: そんなことはないです。日本では10年住んでいると永住権が取れ

ますが、私の場合はこれを取得してから、より可能性が広がったと思います。

今はとにかく研究を通して知識を深めたい。
以前は、歯科医の先生がたから
の突っ込んだ質問に答えられず、先生を苛立
たせてしまったりで、相手にさ
れませんでした。

ですから、これからは自分の力で、しっかりと専門的なコミュニケーション

が出来るようになることを目指しています

 

 

 

ロズリン: 歯科医さんといえば、前田先生のお父様も、歯医者さんでいらしゃ

ったのですか

 

前田: 私は、本当は医者になりたかったんです。父親も医師を目指していた
ですが、果たせずに歯科医師になったので、父親のたっての願いもありま
して...。 
ま、しかし医学部には入学できずに浪人することになったとき
は、次に医学部
を受けるにしても、自分のやりたい分野も受験しようかと思い
ました。

結局、浪人は2、3ヶ月しただけで新設された鶴見大学歯学部を受験し、結果的

に現在に至っています

 

ロズリン: 他に、どんなことにご興味がおありでしたか

 

前田: ずっと心理学に興味がありました。それで渡米のすぐ前のことですが、

上智大のカウンセラー養成課程を1年間受講したことがあります。これはとて
いい勉強になりました。

カウンセラーの資質で一番大切なのは、とにかく「“聞くこと”ができること」。

相手の言うことを、徹底して聞く。参加者はみんな1年かけて、ひたすら聞く

姿勢をつくる訓練をしました。

カウンセリングの基本は相手の話を聞き、その時の感情をそのまま理解すること

ですから、この講座を受けてみて、それまで自分がいかに人の話を“聞いていな

かったか”が分かりました。

ですから今、120?130人の学生を相手に講義をしていて、聞いているんだ

か、聞いていないんだか、何もリアクションがないと非常にがっかりします。

反応がよかったときとか、質問がきたとき、初めて学生さんたちとのコミュニケー

ションが成立したと思いますから。

大勢を相手に講義していても1対1でお話をしている気持ちでいるので、相手か

らの反応がないまま、講義が終わると学生さんとのコミュニケーションが失敗し

たかなと感じます

 

ロズリン: それではこの辺でインタビューを終わらせていただきます。

長い時間ありがとうございました

 

ロズリンのインタビューの感想

先生とのインタビューは面白くて、専門的な話なのに時間がたつのを忘れてしまい

レストランの店長にもう閉店ですよと声をかけられてやっと時間に気がつくくらいでした。

いつでもいっしょに飲みたいような相手ですね。