テキスタイルデザイナー 
 
 原口 良子さん を お招きしたインタビュー
 後編 です。





 日本の伝統とインドの手仕事のハーモニー
 
 
 ロズリン:自然の染色は柿渋の他に何を? 

 原 口 :藍染 をやっています。
 
       この作品 ( 左の写真 ) は 5.5mのサリーを
       2枚使ったものに 藍染 で ブロックプリント を
       施したものです。 

       ブロックプリント というのはインドの伝統的な
       手法で 水玉 や ストライプ の柄 を彫った
       20cm四方の版木に、糊を載せ、生地に繰り
       返し置いていきます。
 

 その生地を藍で染め、糊を落とすと、
 糊が載っていたところには色がつかずに
 模様として現れてくるんです。
 






ロズリン:手仕事ならではの柔らかさがありますね。 
       こちら ( 下の写真 ) は 帯 ですか?
  
原 口 : 紙衣 ( かみこ ) の 帯 です。
       表地は、和紙作家 リチャード フレイビン が作ってくれたものです。



      明治時代の 大福帳 や 古紙 を煮戻して再生させた和紙をインドにもって
      行き、薄いシルクをミシンで縫いつけ、再び日本に持ち帰ってから 帯 に
      仕立てています。 

      昔の紙は不純物が入っていないから紙の質が良いんです。 
      
      当時の物は ニカワ も強いので、よく見ると、大福帳の文字があちこちに
      残っているんですよ。
 

    墨文字  ↑ が残っている

ロズリン:
あ本当です。 
      紙が帯として使えるなんて素晴らしいですね。
 



      ジャケットの形になっているものもありますね。 ( 下写真 )
  
原 口 :これは 板締め染め という技法を使ったもの。 

      現在は東京の福生の方にごくわずかだけ残っている 村山大島紬 という
      着物のための手法です。
 


      絣板 という溝を彫った版木の間にシルク生地を畳んではさみ、ボルトで
      ギュッと締め、染色機で圧力をかけて版木に染料を流し込んで染めて
      いきます。
                    
 
布の入れ方で柄の出かたが変わってくるんですよ。

板締め染めはインドの方にもとっても好評で
「 インドには沢山のテクニックがあるけれど、
こんなものは見たことがない 」 と 絶賛されました。





←同じく板締め染めの作品。
 布にキレイなラインがあらわれる。



ロズリン:
制作は日本とインドの両方で? 

原 口 :以前は日本で染めていましたが、今は板締め染めを除いて生地の開発
      から生産、縫製、染めまで全てインドで行っています。 

      年に5~6回はインドに行っていますね。

      一番生地が多く集まるデリーを中心に、“ 西の都 ” と呼ばれている
      ジャイプール という街からハイウェイで1時間ほど行った 草木染の村
      に行ったり、一度 行くと大体2週間か3週間滞在してきます。









インドの染め工房にて


   
  インドの職人たち  左が藍染め、右はコンプレッサー染め


人との出会いとチャンスの流れに乗って 


ロズリン:出身は九州ですね。 
      若いときからデザイナーになりたいと思っていましたか? 

原 口 :いいえ、進学は横浜のフェリス女子短期大学の家政科へ。 

      特に美術何かには興味はなかったです。
      ただ部活はたまたま美術部に入ったら、2年生のときにジャンケンで
      負けて部長になってしまったんです。 

      そこから急に目覚めてしまって。 

      講師の先生を招いたり、七宝の機械の予算を取ったり、学校で初の
      展覧会を開催したり奮闘しました。( 笑 )

      ちなみにそのときに私が選んだのが ロウケツ染め だったんです。



ロズリン:卒業後も ロウケツ染め を?
 
 
原 口 :卒業後は博多でOLをしていましたが、母の叔父が日展の漆作家
      だったので、ロウケツ染めの先生を紹介してもらったことがきっかけで、
      再開することになりました。 

      その後、どうしてもこの世界に戻りたい気持ちが大きくなり、
      テキスタイルの専門学校に入ったんです。 

ロズリン:自分の夢を信じて進む。いいですね。
 

 原 口 :子供の頃からどうしてもアートの
       学校に行きたくて勉強していた人
       とは違い、私はいろいろな人との
       出会い、その時々に向こうから
       やってくる流れにうまく乗って、
       この世界に入りました。 

       振り返ってみれば、全部がプラス
       に働き、今の私があるんです。



作品の魅力が広がるコラボレーション
 
 
ロズリン:ギャラリーに流れている映像は今回の展示のためにつくったものですか?
 
原 口 : 「 美しい布 インドの手仕事を染める 」 という本を出版したことを友人に
      伝えたときに、彼女に強く勧められたのがきっかけです。


     ギャラリーにて流された 「 旅する布 」 の映像

      映像は 「 旅する布 」 というタイトルで、インドで生み出された布が
      東京へ、そして私の故郷の福岡に辿り着くイメージを、ダンサーの
       “ 香春 ( かわら )” 氏 が布を纏って表現してくれたものです。 

ロズリン:動きが出ることで布の表情が豊かになりますね。 
      演劇やオペラなどの舞台衣装にも合いそうです。
 


原 口 :今回、初めて映像制作をしてみて、布のイメージに合った動きをつけて
      いただいたのがとても素晴らしかったので、また何かご縁があったら
      一緒にやってみたいと思います。 

      違ったジャンルの方とのコラボレーションは作品の新しい魅力が発見
      できて新鮮ですね。
 


インドで湧き上がるインスピレーションをカタチに
 
 
ロズリン:作品は和紙のボディに布を纏って展示されているものがステキですね。
      この布は購入できる? 

原 口 :布としては販売していないんです。 
      むしろ布が一番映えるカタチ、お洋服に仕立てたものを提供したいので。 

      ただストールとしての販売はしていますし、インドの方からはサリーの
      注文を頼まれることもあるんですよ。
 



ロズリン:洋服のデザインもご自分で? 

原 口 :プロのデザイナーにお願いしています。

      但しできあがった生地を見て、まず私がこんな雰囲気につくって欲しい
      というイメージを固めて、それを基にデザインをしてもらいます。
 

ロズリン:
専門家にアウトソーシングするのはいいですね。 
      Sind のスタッフは何人? 

原 口 :スタッフ2名、アルバイト2名、そして私をいれて5名です。 

      インドでの検品や出荷のチェックから、日本各地で年に60回くらい開く
      個展の準備など、スタッフ全員で駆け回りながらやっています。 ( 笑 )

     インドでの個展の様子

            


ロズリン:日本でもインドでも忙しく飛び回っていますが、新しいアイディアが
      生まれるのはどんなとき? 

原 口 :それが、インドに行かないと出てこないんです。

      生地屋さんを回って、ピンとくる生地に出会ったときや、
      その生地をどんな風に変化させるか思いをめぐらせているときに、
      自然にアイディアが浮かんできます。 

      日本で考えていても全然出てこない!
      やることが多すぎて、そういう時間が取れないからかもしれない
      ですね。( 笑 ) 

      これからも、やってくるチャンスやインスピレーションをキャッチして
      自分らしい表現をしていきたいです。
 
 
Sind WEBサイトURLhttp://members3.jcom.home.ne.jp/sind/




<インタビュー感想>
 
ちょうど個展が開かれていたギャラリーへ伺ったので、作品の1点1点を
拝見しながら、染色の方法や生地への加工法など、本当に丁寧にお話しを
うかがうことができました。 

一つの色が染まる過程で変化してゆく濃淡のグラデーション。 
玉虫色に艶めく布や、濃く深い藍の色に魅せられました。 

中でも彼女の作品の特徴色の1つである 「 柿渋 」 という染料が、本来の
果物の 「 渋柿 」 を発酵させて作られていること、染料の独特な臭いから、
あまり衣服には使われていなかったことなど、とても興味深いお話が続き
ました。 

これまで様々な方々にインタビューさせていただきましたが、良子さんほど
肩肘張らず“やわらかく”生き、なおかつ“できる女性”は少ないのではと
感じました。

様々な縁がつぎつぎとめぐってきては、自然とその後の道へと紡がれていく。
その縁を引き寄せるのも彼女の才能と明るさなのだと思います。

これからも素敵な作品を楽しみにしています。