花岡 和佳男さん を迎えての後編です。
 



 

単独の放射能汚染調査
 
ロズリン:原発事故の環境に対する影響を調査したきっかけは?
 
花  岡:3・11の後、私たちは政府に対し、海に大量に放出された放射性物質に
      ついての調査を要請したんです。 でも色よい返事はもらえなくて。

      なのでグリーンピースが持つオランダ籍の船を日本の領海にいれてもらい、
      福島沖で自分たちの調査を行なうように申し入れたら、政府は自分たちで
      やっているから、外からの協力は必要ないと断ってきた。

      あきれましたね。
 

ロズリン:
それで政府は本当に調査したんですか?
 
花  岡:調査をしたら、決まって高い放射能汚染の数字が出て、そのときどう対応
      していいかわからないから、ちゃんと調査しない。
 
      私達はやっぱり海への影響を知る必要があると、政府がだめでも県や市の
      行政に 「 一緒に調査しましょう 」 といったんですが、そういうところもやっぱり
      やりたくないんです。





グリーンピースの調査が政府を動かす
 
ロズリン:ひどいですね。
 
花  岡:それでも、海洋生態系や周辺住民への放射能被害の実態を調べる
      必要があるとの使命から、私たちは漁港を一つ一つまわり漁師さんたちと
      直接話しました。
 
      最初に 「 グリーンピースです 」 というと 「 俺たちはクジラとってないぞ 」
      とひかれましたが ( 笑 )、 漁師さんは震災直後から海や魚の放射能検査を
      県に依頼していたにもかかわらず、県がそれを拒否し続けていたという現状を
      知りました。

      なので 「 放射能の海洋汚染調査をしたい 」 と説明すると 「 どんどん調べて
      くれ 」 と逆にお願いされました。

      そういう状態でサンプリング調査をすると、やっぱり衝撃的な数字が出ましたね。
      海藻で、12万6千ベクレルのヨウ素131とか。
 
      そういうことを続けていたら、複数のメディアも、結果を隠す政府より、問題を
      明るみに出し解決策を探る私たちのほうが信用できると、調査結果を掲載する
      ようになったんです。
 
      その結果、徐々に政府も海藻や魚の汚染調査をするようになりました。
 

ロズリン:
大きな成果ですね。
      その汚染された魚を私たちが知らないで食べる可能性はあるんですか?




花  岡:
福島の漁師さんは今でも漁業を自粛していますが、海では水も魚も移動します。
      検査体制が整ってない漁港も多いので、可能性がないとはいえないですね。
 


 © Jeremy Sutton-Hibbert / Greenpeace   © Noriko Hayashi / Greenpeace
 船上での調査の様子(魚や海藻など)     沿岸調査の様子




放射能汚染基準の自主規制  
 
ロズリン:難しい問題ですね。

      調査結果はもちろん発表しないといけないし、反面、日本の東海岸でとれる
      魚は食べられなくなるリスクもありますね。
 
花  岡:グリーンピースが調査する目的は、まさにそこを防ぐためです。
      環境を守ることと共に、漁師の生活を守る。

      そのためには検査をしっかり行い、安全な魚とそうでない魚をわけることと、
      消費者に購入の判断ができるだけの十分な情報を提供することが、
      日本の漁業や漁師を守る唯一の手段だと思うんです。

      私たちは自分たちで調査活動を行うことで、漁師さんや消費者の不安の声に
      応えるとともに、政府に 「 こうやればいいんだ 」 と例を見せたかったのです。
      
      私たちが政府にかわることはできませんからね。
 

ロズリン:その結果、安全基準はどうなったんですか?
 
花  岡:政府が最初に出した 「 500ベクレル 」 という魚の安全基準は、
      明らかに高すぎでした。

      今年になってその基準が下がったことは歓迎しますが、 「 100ベクレル 」 は
      まだ高い。 そのことは僕達以上に消費者の方が感じています。

      放射能に関しては 「 これ以下なら安全 」 と言えるしきい値がなく、消費者
      によって判断基準も異なるので、魚をしっかり計り、汚染値を消費者に公開
      することが、今必要な対応策だと思います。
 
      でも政府はどうしても動きが遅い。
      そこで私たちは複数の国内大手小売業者に対し、独自の検査の実施と
      調達基準の設立について働きかけを行いました。

      スーパーの売り場の魚を調査すると、広く流通し日常的によく食べられている
      魚にも、放射性物質が確認されました。


       ↑↑クリックすると、グリーンピースWEBサイトへ!
               (拡大版を確認できます。)


      すると、私たちの調査と交渉により、多くの消費者からの声に応える形で、
      業界最大手のイオンが、 「 放射能ゼロ目標宣言 」 を行いました。

      独自に商品の放射能検査を行い、その結果を消費者に公表すると同時に、
      政府が定める安全基準よりも10倍厳しい、独自の調達基準を設けました。
 
ロズリン:それは消費者に対して、大きな宣伝になりますよね。
 

花  岡:
日本の業界は横並び意識が強いですし、政府にたてつくようなことは
      民間の会社はやりにくい。

      業界最大手が政府の10倍も厳しい規制を独自に行ったこの件は、どれだけ
      政府の対応が不十分で、消費者の声が大きかったかということが表れている
      と言えます。
 
      小売業界は努力を始めました。でも本当は、流通の川下にあるスーパーだけ
      ではなく、川上にある漁港にこそモニタリングステーションを作り、水揚げされた
      魚を調べることが大事だと私たちは思います。




ロズリン:そういうことこそ政府が全力で行わなければ。。。
 

花  岡:
今の状況だと日本の魚は売れないから、輸入魚の取扱いを増やす判断をする
      スーパーも出ています。

      過剰漁業によりすでに危機に陥っている日本漁業にとって、小売のこの判断は
      致命的。 この問題を政府が放置すれば、数年後には日本の漁業は崩壊して
      しまう危険がある。
 
 

日本の漁業と食文化を守りたい
 
花  岡:私たちは日頃から魚をとるな、食べるなと言っているわけではない。      
      寿司や焼き魚などの日本の食文化の基盤となっているものをちゃんと
      残すには、獲り方と食べ方に気をつけようといっているんです。
 
      今回のことも一緒で、日本の漁業を崩壊させないように、消費者が安心
      して購入できるだけの十分な検査の実施と情報の提供を、政府が行う
      ことが不可欠だと思っています。
 
      また福島では今でも避難できない人たちがまだたくさんいる。
      この人たちは避難する権利があるわけで、政府がお金を出してサポート
      しなければいけない。
  
      そういう法律作りにも取り組んでいます。
 

ロズリン:
グリーンピース・ジャパンは、どれだけの人数で運営していますか?
 
花  岡:日本はスタッフが約20人と少ないです。
      ドイツは200人いますけどね。
      大手小売企業との交渉を行なったのは、たった5人ですよ。
 
      もちろん日本の事務所が単体で動いているわけではなく、国際NGOである
      特性を活かし、グローバルな連携を持って活動をしています。

      たとえば今回は、チェルノブイリの事故の際に現場で活動した専門家や、
      放射線アドバイザーの資格を持つスタッフらが、各国にあるグリーンピースの
      事務所から来日して、チームに加わりました。


          © Noriko Hayashi / Greenpeace
          沿岸調査の様子

     もちろん日本にも、協力関係にある大学教授や弁護士の方、ボランティアの方も
     たくさんいらっしゃいます。

     最近は学生を中心とした 「 グリーンピース・ユース 」 で、大学生のボランティアも
     たくさんいて自発的に活動してくれています。
 

ロズリン:NGO団体ですが、資金源はどこから?




花  岡:私達がほかのNGOと違うのは企業や政府からいっさいお金をもらっていない
      ことです。 中立を守るため、全部市民からの寄付です。
 
      だからこそ市民を代表する団体で、誰にでも意見を言えるし、反対をすることも
      できるのが強い。
 
      これは1970年に核実験に反対するため、カナダでグリーンピースができた
      時からそうです。 
      ただ日本の事務所においては、国内の寄付だけではまかない切れず、ほかの
      国のグリーンピースからのサポートもあります。
 
 

今こそ持続可能なエネルギーを使う社会に変わるべき時
 
ロズリン:これからの花岡さんの活動テーマは?
 
花  岡:震災以来、ずっと原発に関わり、福井にも滞在し約3カ月地元の方たちと活動し
      原発停止を訴えてきました。

      5月5日に北海道の泊原発3号機がとまって、日本の原発が全停止しましたが、
      引き続き、政府が脱原発の道筋をしっかりと定め、政策や市場が確実に
      自然エネルギーにシフトしていくこと、そして放射能汚染の被害をできるだけ
      少なくすることに、注力していきます。
 
      日本人の民意は原発の再稼働に反対と言っている。
      政府は原発を再稼動させることを考えるより、早く持続可能な自然エネルギーに
      舵を切るべきです。
      これこそ福島原発事故を経験した日本がするべきことだと思います。

      いま政府が考えなくてはいけないことは、 「 原発なしでやっていけるか 」 ではなく
      「 自然エネルギーに舵を切らなくて、今後やっていけるのか 」 であるはずです。
 
      また放射能汚染だけでなく、過剰漁業によっても大きなダメージを受けている
      海洋生態系を守り、水産業と日本の魚食、そしてもちろんサンゴ礁を基とする
      生態系に代表される生命力あふれる海を、確実に次の世代に残せるように
      活動をしていきます。
 

ロズリン:花岡さん、本当にお忙しいけどプライベートの時間はあるんですか?

花  岡:あんまりないですね。
      スキューバもすいぶんやっていません。

      海は私のモチベーションのもとなので、もっと近づきたいんですけど。



      また私には4歳の息子がいるんですが、震災の後、幼稚園に除染を頼みにいったり
      プライベートでも戦ってましたね ( 笑 )。
 

ロズリン:日々めげることも多いと思いますが、どうやって元気を保つんですか?
 
花  岡:そうですね。
      めげるというよりはショックが大きいですが、多くの日本の市民と一緒に、
      またグローバルな活動仲間と共に、すばらしい海を子供の世代まで残すんだという
      気持ちが僕の原動力になっています。
 
      今後はまず、原発を停止したまま、夏を乗り切りたいですね。

      そして日本のエネルギー政策が持続可能なものに舵を切ってもらえるように、
      いろいろな可能性に働きかけていきたいです。
 

ロズリン:
すごく楽しみです!

  
                 



 <インタビュー感想>
 
  グリーンピースの活動は、オーストラリアでも目にしていましたが
  私の中ではどちらかといえば、わりと激しい活動をされているという印象がありました。

  でもそれはまったくの間違いだった。
 

  日本の調査捕鯨、漁業の乱獲などに反対するばかりではなく、日本の現漁業市場の
  安定と安全基準の導入、漁師たちが水揚げでできる放射能汚染のテスト、
  どうしたら日本の漁業を持続可能なものにするかといった、非常に建設的な提案にこそ
  力を注いでいる。

  海洋保護区を作る構想もその一つですね。
 
  また驚いたのは、グリーンピースの運営資金が企業や政府から出ていないという点。
  全て個人の寄付から成り立っているそうです。
 
  だからこそ何のしがらみもなく、自由な立場で活動を続けることができる、
  それはすばらしいことだと思います。
 

  結局、原発ゼロの夏を迎えることはできませんでしたが、大飯原発再稼動に関しては
  大規模なデモも実施されました。
 
  これからの日本のあり方を考える夏にしたいですね。