江戸木目込人形 伝統工芸士
 柿沼 東光 さん をお迎えした
 後編です。



柿沼東光URL : http://www.kakinuma-ningyo.com/


柿沼東光の人形には 「 動き 」 がある
 
ロズリン:実は私、こちらに御邪魔するまで、藁葺屋根の家屋で、職人さんが
      畳の上にすわって作業してると思い込んでたんです ( 笑 )。

      お店も作業場もこんなに近代的なので、驚きました。

 
柿 沼 :藁葺のほうが、ムードがあってよかったですね ( 笑 )。
 

ロズリン:
作業は結構、分業でされていますね。

      いろいろ美しい人形がありますが、柿沼さんの人形の特徴はどういう
      ところにあるんですか?


 
         奥では、布地を裁断              人形の髪を糊で整える
       
       
                作業場ツアー中も皆さん黙々とお仕事中

柿 沼 :
伝統工芸の枠の中で、各社競合しているので、特徴はなかなか出しにくい
      のですが、木目込人形は粘土で原型を作り型を作る分、普通の日本人形に
      比べて動きが出しやすいんですね。
 
      ですからうちの人形は最大限に 「 動き 」 を生かすことにしています。
      たとえば、うちのヒット商品であるこの男雛と女雛がくっついている人形も
      そう ( 下の写真参照 )。

      全体の印象はもちろん、後ろ姿の衣装にも動きを出しています。


                              着物の裾や帯びが、波打っている
 
ロズリン:確かに動きがあります。 素敵ですね。
      どのぐらい年間で出ているんですか?

    
      こちらの人形も帯に動きがある。



柿 沼 :1万体ぐらい出てますかね。 人形は300種類ぐらいだしています。
 
ロズリン:毎年、新しいデザインは発表されるんですか?



柿 沼 :
うちは1年に1回、自社でお得意さまをお招きし、見本市をやるんですが、
      新しいものがないと、去年と同じといわれてしまうので、かなり新作は作り
      ますよ。

      なかなかつらいところですけど。
 

      江戸時代の布地を使ったシブい色合い
      が素敵な雛人形


ロズリン:
年間の製作期間はどんな風に動いているんですか?
 
柿 沼 :まず1、2月に来年の雛人形の企画をたてながら、その年の雛人形を
      出荷します。
 
      そして布地見本などを探し、4月にサンプルを作り、5月人形なども出し、
      夏は少しのんびりした時期にはいり、秋は見本市やコンクールなどに参加し、
      それが終わると雛人形の製作を急ピッチですすめ、それが1、2月ぐらいまで
      続きますかね。
 
      並行して5月人形もありますし、基本的に製作はずっと続いています。
 

ロズリン:
ではお正月もお忙しいですね。
 
柿 沼 :昔から人形やには正月がない、というくらいです。忙しいときですよ。


     布地のストック庫
     集められたたくさんの反物が保管されている。
 

ロズリン:
最近の少子化の影響はありますか。
 
柿 沼 :現在、1年に生まれる赤ちゃんが110万人を切っていますが、
      出来れば出生増になってほしいですね。

      ただ、最近は全国規模の量販店でも雛人形を売っているんです。
      外国製のものも多くて、 正直その品質レベルは驚異です。



      ただ雛人形は、女の子が生まれた時に贈答品として送られることが
      多いので、良いものを送りたいという傾向がありますし、うちはその部分で
      やっていけています。 

      木目込人形はすべて国産品ですので、品質の高さでがんばっています。



 人形には、持ち主の魂が入る
 
 ロズリン:欧米の人形と違って、日本人形は
       抱っこして遊ぶということは、あまり
       ないですね。

       こわれないように飾って楽しむもの
       が多いようです。


柿 沼 :
でも雛でいうと、「 ひいな遊び 」 というものが昔からあって 「 源氏物語 」 
       にも出ていますよ。

       紙で作った人形と身の回りの道具をまねた玩具で、今の 「 おままごと 」 
       遊びのようにしていたみたいですね。
 
       もともと雛人形は、3月に子供のひながたを川に流し、その子の災厄を
       託して流す行事から始まっています。
       だからでしょうか。昔から日本の人形には購入した時から、その子の魂
       が入るといわれています。



      ですから不必要になってもなかなかゴミでは捨てられないし、人にも
      あげられないんですね。
 

ロズリン:
それは非常に日本的なお話ですね。 外国では考えにくい。
 
柿 沼 :実は毎年10月に、明治神宮で人形感謝祭というのがあって、長年
      楽しんだ人形とお別れするための催しです。

      どんな人形でもお預かりし、最後のお別れとして境内の回廊に並べ、
      御祓いして、人形からモノにしてから処分、という行事です。
      毎年3万体以上集まりますよ。
 
明治神宮 人形感謝祭URL http://ningyou-kanshasai.com/  


ロズリン:
それを捨ててしまうのはもったいない!

      外国なら、自分が使った後、リサイクルなどで他の人に愛しんで
      もらいたいと思うし、たとえば難民キャンプなどに寄付したら、すごく
      喜ばれるはずなのに。



柿 沼 :この感謝祭では、これがほしいといってもお譲りはできないんです。
   
      でも歴史的、文化的に価値のあるものなどは、明治神宮のほうで引き
      取らせていただくこともあります。
 
 
つきない制作意欲
 
ロズリン: 柿沼さんご自身は、今も人形を作っていらっしゃいますか? 
       それとももうマネジメントに集中ですか?
 
柿 沼 :逸品製作品とか、コンクールへの出品は意欲的にやっています。


ロズリン:
文部科学大臣賞などをおとりになっていますものね。

      仕事で一番やりがいのある瞬間はいつですか?

     
 
柿 沼 :やはり企画したものがきちんと売れたときですね。

      一つの人形の企画には、人形以外にも台やぼんぼりや小道具など、
      いろんなものを作る人をはじめ、多くの人が関わっています。

      そういう人たちが我々の意をくんでくださり、いい人形が出来、コスト的にも
      うまくいったものが結果も出す。 これがやっぱりうれしいですね。
 

ロズリン:
お休みの日などは何をされていますか?



柿 沼 :旅行も好きですし、銀座などにも出かけたりします。
      ショーウインドウのディスプレイを見ては、何か人形のヒントに
      ならないかと、あちこちに探し歩いて楽しんでいます。
 

ロズリン:
ディスプレイは一過性のものですが、人形は保存されるものという違いは
      ありますよね。
 
柿 沼 :エッセンスをうまく取り入れて、残るものを作るのは、なかなか難しいですね。
 
      日本の伝統文化にはもちろん学ぶものは大きいですが、海外に旅しても、
      結局現地の人形を見たり、陶器を見たり、布地を見たり、結局人形のことが
      頭から離れないです。


      と言っても、江戸時代から続いてきた伝統工芸の担い手として、あまり脱線は
      せずに、可能な範囲で新しい感覚をとりいれ、常に挑戦もしていきたいですね。
 
      もともと人形は平和産業です。
      昨年のような天災がある時は自粛しますし、大きな戦争があればなりたたない。

      人形屋が続くような平和な世が続いてくれたらうれしいと思っています。





<インタビュー感想>
 
 江戸人形というと、藁葺き屋根の下、畳敷きの上であぐらをかいて一心に作り上げる。
 そんなイメージを皆さんも持っていませんでしたか?
 だから柿沼さんにおじゃました時、近代的な環境には本当に驚きました!
 
 芸術品ではないとおっしゃる柿沼さんですが、人形は一つ一つとても素晴らしく、
 創業からこれまで発表されてきた人形を綺麗に撮影して、是非1冊の本にまとめる
 べきだと思いました。
 
 この世界に入ったきっかけは、お父様を手伝いながら育ち、跡を継ぐことが当然のこと
 だと自然に思っていたと語る柿沼さん。
 またご自身の2人の息子さんも、一度は別の道を歩みながらも今は同じ道を歩んでいます。
 仕事に打ち込む姿、背中を見て育った子供たち。 父と子との素晴らしいきずなですね。
 
 「 人形に持ち主の魂が宿る 」 ということにも驚きました。
 考えてみれば、どの国でも本当にそうでしょうね。
 
 明治神宮で毎年1回行われる人形供養。 
 欲しいという方に譲れないというのは何とももったいない気がします。 
 お祓いをした後で、新しい方に引き取ってもらうことができたら、、、とは今も思います。
 そう思うのは私だけでしょうか。
 
 そして何と、お土産もいただき 大好きな猫の ( 招き猫 ) の木目込み人形です!
 本当にありがとうございました。