鎌倉在住
   ビーチコーミング案内人
   山田 海人 さん
   後編は、山田さんのお宅へおじゃまして
   お話しをうかがいます。


山田海人さんの鎌倉リポートhttp://kamakuratoday.com/suki/kaito/


ビーチコーミングの興味から、海の世界の専門家へ

ロズリン:ビーチコーミングを経験させていただき、本当にありがとうございました。
      短い時間でも夢中になれ、いろいろ拾えて感激です。

      まったく新しい世界を見せていただいたような気がします。
      山田さんがビーチコーミングをやるようになったのは、専門が海洋学
      だからですか?

山 田 :いいえ、幼稚園の頃から鎌倉の海で遊んでいたので、当時から
      動物の骨や馬の歯を拾ったりして、おもしろいなと思っていたんです。

      むしろ、ビーチコーミングが大学やその後の海関係の仕事につく
      きっかけでした。

ロズリン:
じゃあビーチコーミングが山田さんの原点なんですね。
      就職は?

山 田 :私は潜水ができたものですから、それを仕事にしたいと思って、
      社団法人海中開発協会という海関連の団体に入ったんです。

      ダイビングや潜水の技術を人に教えていたのですが、ここは科学技術庁
      の団体で、もっと海の潜水を科学にするという目的があり、私にはぴったり
      だった。 ただ、お給料があまりよくなくて ( 笑 )。

 
      お給料より、やりたいことをやってやろうという思いで挑戦しました。
 
      最初はクラブなどで大学の先生と潜水技術を教えたりしていたんですが、
      徐々にもっと深く潜るにはどうしたらいいか?ということを本格的に追求
      しようという動きが、国で始まりまして。
 
      そのため海洋科学技術センタ-という、深海の潜水を研究するところに入り
      訓練して、国のプロジェクトで深海に潜っていました。


ロズリン:山田さんにぴったりのお仕事ですね。

山 田 :そうですよ。 日本の国として、これからダイバーが大陸棚などの開発をして
      いかないといけない、あるいは海中で生活ができるものなのか体験したり。
 
      そのための技術開発や潜水医学の向上、深海ダイバーの育成という試み
      でした。
 

 
深海は人間にとって最後のフロンティア。
そのロマンが数々の障害を乗り越える力に、、、
 
ロズリン:実際には、どんな風に潜ったのですか?
 
山 田 :ヘリウム酸素の入った小さなカプセルに人が入り、深海に潜るのですが、
      深海ではカプセル外に出て、海底石油や天然ガスの開発に必要な作業
      ( 試掘作業の補助、トラブルの応急処置・修理、落下物の回収、パイプ
       ラインのメンテナンスなど ) を行っていました。
 
      カプセルの大きさは、底が2平方メートル、高さが2~3mの小さいもので、
      そこに2、3人入ります。 入ったら蓋をしめ、加圧されるんです。



ロズリン:きつそうですね。
 
山 田 :すごくきついですよ。
      ぐ~っと加圧していって、下りていって海底では圧力を調整して、海底と同じ
      圧力になったら、ハッチをあけて外に出て作業しました。
 
      この作業自体も厳しいものです。
      たとえば石油や天然ガスをとるためにパイプラインを作ることをやってみたり。
      実際に工事をするとなったら本当にできるのか、試してみるんですね。




ロズリン:深海は暗いけど、周囲は見えるんですか?
 
山 田 :照明をつけて潜ります。そうすると海の生物がよってくるんですよ。
      シャチとか、大きなものはタカアシガニとか。
 
ロズリン:物見高くてくるんですよね?
 
山 田 :きっと宇宙人がUFOから出てきたような感覚でダイバーを見ていましたよ。
      タカアシガニは大きくてもおとなしいので問題は無いのですが、深海には
      大きなサメもいますし、海外ではシャチに襲われた例もありました。

      深海は宇宙と違って生き物が一杯ですから水中へ出るときは緊張しました。



ロズリン:ああそうですか。じゃあ、注意をしないといけないですね。
 
山 田 :深海というのは、人間にとって最後のフロンティアです。
 
      最後のフロンティアという言葉には、とても大切な意味があって、
      それは神聖な場所に行くといくことです。

      今まで人を寄せつけなかった深海に潜り、仕事をさせていただくのだから、
      身を清めていくような気持ちで望まないと。
      簡単にどんどん行ってしまってはいけない場所だと思うんですね。
 
ロズリン:そういう考えの方は多いんですか?



山 田 :
エンジニアには少ないですね。
      エンジニアはニーズがあれば深海のどこへでも潜るシステムを考えて
      いますが、ダイバーは人の活動領域を広げるという精神論から入ります。
 

ロズリン:深海での作業は体に負担がかかりそうですね。
 
山 田 :かかります。
      私は77年から始まった海底居住実験の計画、シートピアに参加し、
      日本初の200メ-トル潜水実験のダイバーとなったり、300メートルの
      実験では、潜水班長として300メートルまでの潜水を7回経験したの
      ですが、それくらいが限度です。

      「 骨の髄まで新海生物になった男 」 と自称してるんですが、正直、
      あの時は常に不安でした。

      結婚して、まだ子供がいなかったですが、深海の圧力に曝露されてしまうと、
      体に大きなダメージがあり、普通ではなくなってくるんです。

      幸い子供には恵まれましたが、今も肩や腕の骨をはじめ、あちこちに
      トラブルを抱えています。
 
ロズリン:大変なことですね。
 
山 田 :でもそれは、異世界に行く意義に比べれば、小さな問題です。
      宇宙に行く人たちもそうでしょう。



      大変な訓練をしていっても、やはり体にはダメージがある。
      それでもチャンスをもらえるわけですから、選ばれるために訓練で体を
      鍛えてがんばるんですね。          
 

ロズリン:恐くなかったですか?
 
山 田 :深海に潜るのは、生きる全てを外部に依存せざるを得ないので
      もしもと考えると怖いですね。 

      例えば空気のガスがちょっととまっただけでも、冷たい水が服の中に入っても
      死んでしまいますから、本当に危険なことです。
 
      300mの水深では水温は4度ぐらい。10分も浸かっていたらアウト。
      ですから、冷たい環境にいくためにどうしたらいいかを研究し、加温の服など
      の開発も行なっていました。




ロズリン:
それほど危険で大変なのに、なぜ深海への挑戦を続けられたのですか?
 
山 田 :やはり、今まで人間が行かれなかったところに行ってみたいという思いが
      強かった。それには圧力の壁、水温の壁などいろいろな壁が立ち塞がり、
      それを一つ一つクリアしていかないといけない。



      人類が異空間に行く。深海や宇宙に行く。
      こういうことに挑戦したいという気持ちですね。
 

ロズリン:深海の景色は?印象的ですか。
 
山 田 :私たちの次の世代は、深海に潜る船ができていたので、すばらしい景色を
      見られたようですが、私たちの世代はちゃんと活動して水中で作業ができる
      のかという試みをしていたので、なかなか深海生物を観察する機会はなかっ
      たですね。
 
      でも相模湾の深海に世界で一番大きい、タカアシガニというカニがいて、
      これは見られました。

      全長3mから6mもあるカニが、カプセルの回りを取り巻くんです。
      水中では物が1、3倍ほど大きく見えるので恐かったですよ。襲われる
      のではないかと。
 
ロズリン:以前北極の白熊が、自然観察のためにおかれたロボットカメラを、
      何だろう?と手を出して、壊してしまうさまが映像に残されているのを
      見たことがあります。それと似てますね。
 
 

かけらから全体像を想像し、把握する力を養う
 
山 田 :深海の世界は想像力が大切なんです。
      子供たちにも、深海の世界のことをいろいろ知ってほしいと、世界中の
      トピックを私はブログでまとめているんですよ。
 
      特にビーチコーミングをすすめたい。まずお金がかからない。
      自然の中で、目で見て探し拾う。身近な海岸ですごい発見ができることが
      すばらしいです。



      その拾ったものから環境や歴史のことがわかり、広がりがでるのが
      おもしろいところですね。
 
ロズリン:いろいろお宝を見せていただきましたが、今まででもっともすごい
      発見は何ですか?
 
山 田 :さきほどお見せした縄文時代の土偶もそうですが、日本で初めて発売
      された目薬のビンもあります。



      ヘボン博士が調合した目薬 「 精錡水 」 というもののビンです。

    日本で初めて発売された目薬のビン


ロズリン:
拾ったときから、それだとわかったんですか?
 
山 田 :いえ、洗って家でパソコンで調べてわかったんです。
      「 お~! 」 とこぶしを握りましたね。明治7、8年のものです。

      長い年月、海の中に沈んでいたものがある時うちあがってくるときに
      何かオーラが出ているような気がします。
 
      それをたまたま通りかかった私が拾う、という貴重な出会いに驚きます。
 
ロズリン:拾ったものを調べるのもおもしろいですね。
 
山 田 :そうなんです。
      これまでの知識や経験を総動員し、あぁでもない、こうでもないと考えるのは、
      本当に楽しい。



      あと 「 かけら 」 から全体像を想像すること。
      最初はただのかけらなので、それが何だかわからない。でもじっと観察
      してみると、だんだん全体像が見えてくる。
 
      研究でもそうです、一つの実験結果からいろいろなことを想像する。
      まさに、かけらから全体像を把握するということです。
 

 
今後の夢
 
ロズリン:今、一番やりたいことは何ですか?
 
山 田 : ambergris という 「 竜涎香 ( りゅうぜんこう ) 」 を探すことです。 
      マッコウクジラの糞の一種で、実体は結石や胆石のような脂肪の固まりです。
 
ロズリン:その英語名アンバーグリースは、とてもきれいです。



山 田 :
琥珀と似たようなものだと思われて、名づけられたようですね

 
      山田さんがニュージーランドの Ambergris.co.nz 社から
     特別に許可をいただいた画像です。


      「 竜涎香 」 はお香の原料として、昔から世界中で珍重され、高値で取引
      されてきたんですよ。

      竜の涎の香りという意味で、深海にひそむ竜が、安息の眠りの中、香り高い
      涎をたらす、というイメージでその名前がついたんです。
 
      今では1グラム20ドルぐらいなので、大きいものを見つけたら数百万から
      数千万円になるお宝です。


ロズリン:どこにあるんですか?
 
山 田 :マッコウクジラがいる近くの海岸にうちあがります。
      この間はイギリスのほうで見つかったようですが、昔、琉球王国は世界最大の
      輸出国だったんです。マルコポーロも沖縄で購入しています。
 
      今はみんな知らないので、流れ着いていても探せていないんじゃないかな。
      砂に埋まると分解されてしまって無価値になってしまう。
      だから沖縄で探してみたいんです。



      沖縄にはきっと今もうちあがっていると思うので、そういう文化を盛り上げて
      いきたいです。
 
ロズリン:それはいいですね。クジラを大事にすることにもつながりそうです。
      クジラを大事にすれば、何度でもそれがとれるチャンスがあるわけですからね。
 

山 田 :私が深海に行ったのは、宇宙に行ったに等しいと考えていますが、そういう
      思い切った新しい冒険ができたら、やはりおもしろいですよね。

      今の時代はどうしようもない閉塞感があり、一生懸命に飛び出す考え方が
      なくなっているのはもったいないですね。
 
ロズリン:今日は本当に新しい世界をたくさん紹介していただき、ありがとうございました。



      山田さんの奥さまが書かれた 書の前で
  

  <インタビュー感想>

   オーストラリアでは私も、よくビーチでのんびり散歩しています。
   子どもの頃はよく貝や流木を拾ったりしたものですが、その浜辺に 「 お宝 」 が
   うちあがっているなんて、いままで思いもしませんでした。
 
   「 ビーチコーミング 」 という言葉はどちらかといえば、ヒッピー的なイメージを連想
   していました。 でも山田さんによれば 「 海の考古学 」 という、子供もやりますが
   立派な大人の遊びになるから、おもしろいですね。

   私も鎌倉の海岸で、夢中になってビーチコーミングをしてしまいました。

   ひと波ひと波。それを途方もなく繰り返しながら、時までを越え波打ちぎわまで
   運ばれてきたことを思うと、不思議と想像力が沸き立ち、ワクワクしてきませんか。
 
   深海は最後のフロンティアと語る山田さん。
   宇宙同様、未知の世界は想像することがおもしいろいと、目を輝かせていました。

   自然の偉大さと大切さを語る冒険家でもあり、とてもやさしい方です。
   そして、山田さんが大きな竜涎香を見つけたというニュースが飛び込んでくるのを、
   楽しみにしています。
 
   その前に、私がオーストラリアのビーチで発見するかもしれませんよ ( 笑 )。