インタビュー7人目にご登場いただくのは、
築地にある ナカヤマデンタルオフィス 成人総合歯科 
院長 中山 尚仁氏です。

 人と顎(あご)の微妙な関係を探る
 
  ヒトだけの“咬み合わせ”の妙
 
  ロズリン:中山先生は、現在のクリニックを開業されて今年で
 13年目とのこと。
 歯列矯正やインプラントといった、先進的な歯科医療の根幹と
 なる顎の“咬み合わせ”をテーマに、特にご関心が深いと伺って
 います。
私たちサンギの本社近くでもあるここ築地に、何らかのご縁がおありだった?

中山:それが、そういうことは全くなかったんです。
    普通、歯科を開業するときはマーケティング調査をするものですが、私の場合は
    ビルの1階にたまたま空き物件があると言われ、見に来た瞬間にインスピレーション
    を感じて「じゃあ、ここで」という感じでした。

    その前には5~6年ほどの歯科勤務や、少しの間ですが大学病院にも籍を置き
    ましたが、ここに来てからは完全に独力でのスタートでした。

  

ロズリン:診療の中心は、やはり最近注目のインプラントですか。
 
中山:最近はたまたまインプラント関連の治療が増えてきているので、そのように見られ
    がちですが、自分としてはあくまで“咬み合わせ”がメインのつもりです。

    しかし咬み合わせに関しては、問題があることを患者さんご本人がどのように自覚
    しているかどうかがポイントで、それによってこちらの対応も変わります。

    例えば、顎が痛い、音が鳴る、上下の咬み合わせが合っていない、上手く噛めない、
    顎の動きが異常だ等々、何らかの機能障害を自覚した人は、何かおかしいといって
    来院されます。
    
    明らかに治療しなくてはいけない場合は別ですが、何かおかしいけれど、普通に日常
    生活が出来ているような場合、それを治すかどうかは、ご本人が決めることなんです。

    ただし問題なのは、本当の正しい状態を知らないので、その機能障害が当たり前だと
    思っていらっしゃる患者さんもいる事ですね。
 
ロズリン:咬み合わせは、例えば発音などにも影響しそうですね。

 中山:いわゆる見えるところの歯並びが悪い人はもちろん
     ですが、他に例えば、歯が前に出た人の中には、
     下顎が後ろにズレている人がいますから、そうすると
     無意識に普段の位置より前のほうで発音しようとして
     いることになります。

     他の哺乳類と違って、もともとヒトは進化の過程で顎
             がズレやすい構造になっていますが、そのように何ら
     かの構造的な不具合があった場合は、問題を解決す
     るために、他の運動機能が自然に補い合って働くとい
     うことが発音一つをみても分かります。そのおかげで生きていけるんですね。


 データ解析で可視化に成功
 
 ロズリン:私の夫も以前、咬み合わせが変だと言って、ある先生に診て
        もらったことがありましたが、本人はあまり良くなった気がしな
        いと言っていました。
 
 

中山:
残念ながら、一般的に行なわれている“咬み合わせ治療”は、施術者の勘や経験から治療
    している事が多く、今のところはまだ科学的に信頼のおけるデータが少なく、学問としての
    集積も不十分なままだという指摘があります。

    また、心理的なプラセボ(偽薬)効果だけで、患者さんご本人が良くなったと感じるケースが
    ある一方、実際に良くなったのにご自身が実感できていないというケースもあるんです。

ロズリン:それほど、気分の問題が大きい領域ということですね。

中山:いえ、そうではありませんが、そのように誤解され易い分野 ではありますね。 
    そこで、可能な限り科学的に正確な治療にするため、当院では様々な角度からコン
    ピュータなどで解析した客観的なデータを集め、実証する方法を取っています。

  

こんな風に、顎をタテやヨコに動かしたときの動きなどを綿密に数値化して、その結果を
誰もが見て分かる形にまとめています。

ロズリン:
なるほど、こうしてグラフ化されると分かりやすいです。

中山:患者さんには、事前のカウンセリングで咬み合わせの異常からくると思われる約150
    項目の不定愁訴の自覚症状をお訊ねして、
歯並びの模型を作り、レントゲンデータ、
    様々な写真、歯ぎしりをはじめとする様々な検査、コンピュータによる顎機能検査をした
    上で具体的な治療計画を立て、その人の顎が本来あるべき正しい位置関係を決定し、
    治療に入ります。

    従来の噛み合わせ治療では試行錯誤的に行うのが常ですが、当院では診断の段階で
    治療のゴールが見えているという訳です。

    時間も手間もかかる作業ですが、データを見れば、治療成績が向上していく過程がお分
    かりになるでしょう。



力のストレスと歯の健康

ロズリン:
その他に、どんなことが顎のトラブルの原因になりますか。

 中山:睡眠中の歯ぎしりも、大きな問題として
             捉えています。
     口腔全体の役割というのは、話す、食べる、
     呼吸するなど様々ありますが、歯ぎしりは
     精神的なストレスと関係が深いとされています。

  これは歯ぎしり検査の結果なのですが、
      写真赤色の薄いシートを装着して 寝て頂きます。
 白い○が付いている部分が歯ぎしりで削れています。



ロズリン:
歯ぎしりとストレスは深い関係にある?

中山:いわゆる“歯ぎしり(ブラキシズム)”や“噛みしめ(クレンチング)”は、ストレスを開放する
    手段として、ある程度は誰
でも習慣的にやっていることで、人間にとっては必要なことだと
    言えます。

    ところが、歯並びや噛み合わせが悪かったり、病気やストレス、アルコール、薬物などに
    よって咀嚼筋の活動が異常に活発になると、歯や顎のトラブルに発展してしまう。
    そこが問題なんです。

    歯のトラブルの原因を大きく2つに分けると、まずバクテリア、もう一つがフォース(力)です。

    咀嚼にかかる力だけなら、せいぜい体重プラス10kg程度と、大したものではありません。
    しかし睡眠中の歯ぎしりや噛みしめは、昼間に比べて何と5〜10倍ものの負荷が歯や
    顎にかかります。

    そのため、正しい噛み合わせで力のコントロールが上手に出来ないと歯が壊れてしま
    うんです。
 
    歯が傷つけば、むし歯や歯周病などの原因となる細菌やバクテリアに侵されるリスクも
    高まりますから、正しい噛み合わせによるストレス管理は、歯のトラブルの予防という
    観点からも非常に大切だということです。
 
ロズリン:歯の根元が、ひどく削れてしまった症例もありますね。



中山:これはデンタル コンプレッション シンドロームといって、歯ぎしりや噛みしめの圧力に
    よって歯のエナメル質が壊れ、えぐられるようにはげ落ちてしまう症状です。

    大きな負荷がかかり過ぎれば歯だけでなく、歯を支える骨までが破壊されて歯周病に
    もなってしまう事があります。

    その他にも顎関節症がおきる場合もあります。つまり、むし歯や歯周病なども、もしか
    すると顎からの負荷が関係しているのではないか… バクテリアだけでなく、この視点
    からも見て
いこうというのが、私たちの姿勢です。
  
    近年は審美歯科治療の普及で、患者さん側の意識も高くなってはいます。
    お手入れをしっかりしているにも関わらずトラブルが起きるとすれば、顎からの、こうした
    “無意識の力”の要素も十分考えられるのではないでしょうか。

    その点を問題提起したいのです。

インタビューは後編へと続きます!お楽しみに。