1月14日にアップした、第7回インタビュー後編です。


ナカヤマデンタルオフィス成人総合歯科 

院長 中山 尚仁氏にお話を伺います。

始まっている世界規模での取り組み

ロズリン:
日ごろは意識しにくい“咬み合わせ”ですが、とても複雑で
                 奥深い世界のようですね。

中山:咬み合わせは、予防を含めた口腔ケアの全ての基本です。
    歯科疾患の原因を考えると、バクテリアだけでは説明できない事や、
    これだけ材料学が発達したにもかかわらず、再治療になってしまう
    ケースが多々あるのです。
    
    原因を考えれば考えるほど、力(噛み合わせ)の関わりが避けては
    通れない事が分かります。
    しかし基本と言いましたが、実際には “咬み合わせ”はまだ総合診断
    の項目の一つにすぎず、残念ながらいま最も研究が手薄で一般歯科
    医の関心が抜け落ちている分野だと言ったほうが近いでしょう。

    歯科は歯を奇麗に修復したり、歯周病などの手術をしたりと職人的な
    ところが多いのは皆さんも知るところです。
    歯科医は皆、それに心を砕いて診療に励みますし、結果の出やすい
    部分ですから興味も自ずとそちらに向くでしょう。

    しかしこと噛み合わせに関しては、すぐには結果が出ず、ましてや職人
    芸ではダメなのです。

    虫歯があったり、歯周病で歯がぐらつくというのは、家で例えると障子に
    穴が開いている、ドアノブが取れかかっている、というような、明らかに目
    で見て分かる事なんです。

    しかし咬み合わせの診断というのは、この家はドアの閉まりが悪い、だけ
    どドアには問題がなくて、実は家の柱が曲がっているから建てつけが悪く
    て閉まりにくいんだ、というような事なんです。

    多少無理をすればドアは閉まりますから、一見問題が無いようですが、
    実は家を支える柱が大変な事になっていて、目で見ただけではそれは
    分からない。
    検査をして初めて、柱が曲がっている事が原因だと分かるといった具合
    ですよね。

    もしかしたら、咬み合わせを職人芸で治せる場合もあるかもしれません。
    しかし虫歯や歯周病と同じように、誰もが分かる客観的なデータを基に、
    誰もが同じ診断、治療を出来るようでなくてはなりません。

    それが学問なんです。

ロズリン:咬み合わせについての研究は、世界的にはどのような広がりが?

 








中山:オーストリアを本部とする国際先進学際歯科学会(iAAID:International
     Academy of Advanced Interdisciplinary
Dentistry)は、咬み合わせを
    根幹に置いた先進歯科治療を行う学会で、3年前に発足して以来、国際
    的な規模での情報交流を行なっています。
    私も同学会ではアジア部会(http://www.iaaid-asia.jp/)の理事を務めて
    います。

    2009年は3月にアジア部会の学会があり、海外から多くの発表もあります。
    9月には日本でのサマースクール、シンポジウムがあり、2010年はフランス
    のニースでの学会開催が決まっています。

    学会などの催しを通じて、関心が高くなる事を期待しています。

ロズリン:近年、新しい学説や発見などは。

中山:歯ぎしりがストレスとどのように関係があるか、歯ぎしりと不正咬合がどのよう
    に関係があるかが徐々に解明されてきています。

    また不正咬合があることによって、脳神経活動にどのような影響を与えるかを
    ファンクショナルMRIで解析するなどの研究も進んでいます。

ロズリン:近年、流行りの審美歯科やインプラントとも関係があるのですか?

中山:はい。 審美歯科にもインプラントにも咬み合わせの知識は必要です。
    咬み合わせは、全ての歯科治療と関係があります。

ロズリン:そうしたら色々な分野の勉強をしなくてはなりませんね。

中山:そうですね。iAAIDはそれら全てを網羅した学会です。

    歯科医療は長い経験を積み、自信を持てば持つほど、自分の学んできた得意
    な分野の診療方法に偏りがちなものです。

    これは審美やインプラントを得意だといっている歯科医の盲点でもあります。

    自分の得意な分野は正しい、知らない事はうさんくさいといった「医の中の蛙」的
    発送は非常に危険です。
    苦手分野や丸投げ分野があっては、多くの治療選択肢を平等に提示できません
    し、高品質な治療結果も残すことはできません。


東洋医学の神秘にふれて

ロズリン:お仕事を離れて、先生はどのように健康管理しますか。

中山:そうですね。私たちスタッフ自身が健康でなければ、健全な治療は出来ないと
    考えています。

    食や睡眠に気をつけるのはもちろんですが、適度な運動も必要です。
    運動を兼ねて、最近は自宅から自転車通勤です。 空気が悪いのでマスク必携
    なのが難ですが、片道30分くらいで、ちょうどいい気分転換になっています。

ロズリン:もう一つお聞きしたいのが、治療に漢方などの東洋医学を取り入れていらっ
       しゃることです。そのきっかけは?

中山:東洋医学や漢方の勉強は歯科医になってからのことですが、開業前に勤めて
    いたクリニックの先生の影響です。

    もともと自然やその成り立ちなどに興味があったこともありますが、体調を崩して
    薬が効かず困っていたとき、「身体を暖める物を食べて休養し、ここのツボを押し
    てみたら?」と教えられ、やってみたら嘘のように良くなりました。

    食べ物が身体を暖める、冷やすという概念は知りませんでしたし、またツボを押す
    だけで身体が面白いように反応する感動体験から、奥の深さにハマってしまいまし
    た。今では、患者さん全体の状態を診るのに役立っていますし、また必要に応じて
    漢方を処方することもあります。 

マクロの視点から原因究明に挑む

 ロズリン:顎のトラブルやインプラントなど高度な治療が必要な
       とき、良い歯科医を選ぶポイントは何でしょうか。

 中山:なかなか分かり難い部分ですよね… これはそういった
     専門性の高い治療に限らず一般治療でも言える事なの
     ですが、自分で行った症例や治療方法の写真、データな
     どを、きちんと資料として保管してあり、それを見せながら
                 わかりやすく説明してくれるような歯科医は信頼できるの
                 ではないでしょうか。

ただし写真が汚くてもいけません。写真の撮り方一つでも、その医院の治療に対する
クオリティが出るものなんです。 


ロズリン:先生ご自身では、どのような流れで治療を?


 中山:緊急の場合は別ですが、初回はいきなり治療
     せず、最初の1時間ほどは治療計画を検討する
     ために使い、患者さんに十分な説明や情報を提
     供し、治療方法もいくつか選択肢を提案します。
     とにかく、原因を含めて徹底的に説明をします。

    もちろん最終的には、患者さんご自身で治療方法
    を選んでもらうようにしています。

ロズリン:新しい視点に立った最先端の歯科医療の現場で、これから目指すものとは?

中山:咬み合わせをベースとした総合診断の結果をいかに標準化し、ルーティーンに
    するか。 そして、蓄積したデータを開示して、我々の活動の内容を理解してもらい、
    底辺を広げて行かなければなりません。 

    インプラントや審美歯科は今の主流ですし、私も得意な分野ではありますが、
    「なぜそうなってしまったのか?」という原因論を追求しないままの治療が横行
    しています。
    そこを考える事が、頭蓋や下顎のシステムに関心を深めるきっかけだったんで
    しょうね。


 頭蓋下顎系を構成する精緻なメカニズムとしての咬み
合わせは、根本的 な原因究明の大きなカギであり、
多角的な総合診断の要です。

咬み合わせの重要性に対するこうした認識を、歯科医療
に携わる全ての人が 持つようにならないと、疾患は本当
には治らない、そのように考えています。




<インタビュー感想> 

中山先生にお話を伺い、自分ではもともとトラブルがなかったので今まで気にして
いなかった「噛み合わせ」の重要さに、改めて興味を持ちました。

またストレスを解消するための自然行動として行なってしまう歯ぎしりや噛みしめが、
噛み合わせの問題にともない、歯の表面だけでなく、歯根や骨、顎の関節にまでも
影響を及ぼすというのは、恐ろしいことです。

大学病院でなくても、これだけ詳細なデータをとっていただき、相談できる歯科医院が
近くにあるというのは、大変心強いですね。